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本の未来~電子書籍と個人出版とAI~1人1冊出版の時代?【訂正版】

本の未来を語ろう。その前に、ある議論についてそろそろ決着をつけようか。

読解力の皮肉なデータ

 日本の若者の読解力は下がっていると言われている。若者、つまり僕たちのことだ。

 確かに僕たちは生まれたときからYoutubeにTwitterにFacebookがあったから、活字よりかはSNSで情報を得る。そして手紙や年賀状、卒業文集の文化は消えかけている。僕が小学校を卒業するときには文集を書いたが、3年後の中学校を卒業するときには無くなっていた。何年も前から騒がれているように、若者の活字離れは順調に進行中だ。

 しかし読解力の低下と関係があるか分からないが、若者の活字離れを否定する、こんなデータもある。

進路情報メディア『スタディサプリ進路』2023年

 このアンケートは、進路情報メディア『スタディサプリ進路』が、2023年にスタディサプリ編集部の高校生エディター&公式LINE登録者を対象に実施したものだ。*1

 まず調査のタイトルが「本を読む高校生の割合」とかではないのがヤヴァイが、意外にも本を読む高校生は多いらしい。

 確かに、僕の学校にも本好きは多いし、愛読書を聞けばみんな誇りを持って答えてくれる。

 しかし若者の読解力に関してはこのデータでは弱い。本を読んでいるからと言って読解力が上下するかどうかなど分からないからだ。

 そしてついにこの「若者の読解力」論争に決着をつけるデータが発表された。

日本経済新聞2023年12月5日付け

経済協力開発機構(OECD)は5日、世界81カ国・地域の15歳69万人を対象に2022年に実施した学習到達度調査(PISA)の結果を公表した。日本は読解力で3位となり、過去最低の15位だった前回18年調査から回復した。学校現場での授業改善が進み、情報を自ら探し出して理解する力が伸びたとみられる。*2

 これは本記事を書いているまさに3か月前に公表された新鮮なデータだ。そして僕はこの記事での「15歳69万人」のうちの一人だ!僕は2022年度に15歳を迎えた世代だ。何気なく受けていたあの調査がこんなにも大規模なものだったとは!このデータに再会できたことと、こんなにもうれしい結果だったことにまずは感謝。

 覚えている。この学習到達度調査を受けたその日を。

 中学校3年生の時だ。体育の後の国語の授業がつぶれたのも束の間。「高校入試の模試だと思って受けろ」と渡されたのは、国・数・理の3科目のテスト。表面上の名前は「全国学力テスト」で、どれもなかなか難しい問題だった。とくに国語の最後の記述問題は革新的で、なんだか芸術大学の入試を受けているようだと思った。

 テストの結果が記載される「個票」には、今までのように順位や偏差値が書かれてはいない。「レベル」という新たな指標を設けて、自分の過去のデータとの比較になっていた。他人とではなくて自分と戦ったのだ。とても新鮮な経験だった。

 眠くなりながらも頑張って解いたテストだから、結果的にこんな風に報道されるのはとてもうれしい。

 しかし喜ぶのはまだ早い。注意しなくてはならないのは、これは15歳に限った話で、日本人全員の平均の話ではない。5年後に二十歳になった僕たちをまた調査したら、ほかの国に抜かれてしまった、なんてことも考えられる。そうしたら、ただ日本の教育が早い段階で読解力が身につくだけで、最終的には時期は違えど他国の教育のほうが読解力を形成するのに優れているなんてことになる。永遠に「日本人」としては読解力が低い状態が変わらないままだ。

 このことに気づくのにはまさに読解力が必要だ。あなたが瞬時にこのことを疑えなかったのなら、データの見方を変える必要があるだろう。読解力に関するデータを読むのに高い読解力が必要だなんて、なんて皮肉なことなんだ!

5年後なんてどうでもいい

 日本人の読解力問題に本当に結論をつけるには、今から5年後を予想しなくてはならない。

 まあでも、未来のこと考えたってしょうがない。そうだろう?

 みんな大人は「○○年後の世界」とか、「AIの進化」とかそういう未来予測が大好き。ホリエモンとかはよくその話をするし、この話題では実際に儲かっていそう。つまり、金を稼ぐことばかり考えていたら、未来を予想せずには成功できないらしい。

 しかし、ほんとに未来の予想が完璧に当たったとしても、今何かを実行できるのだろうか。予想しておしまい…のままじゃ未だあなたはカリスマのファンのままだ。そもそも、未来を予想する意味などあるのだろうか。

 たしかに、ユーモアのある未来予測ならそれはエンターテインメントとして人々を結束するものとなる。一方、日本人の読解力だとか人口減少だとか「データ」に関する未来予測が生むのは、専門家たちのカフェインの消費量を増やすだけだ。

 未来予測は面白いから良いけど、時に行き過ぎたことまで考え始めてしまう。それをコントロールするのがまさに「読解力」なんだ。

 読解力を備えた人じゃないと、ただ未来予測の快感の部分に浸り続け、陰謀論や謀略史観などに触れ始めてしまう。そして読解ができないから、どんどん吸収する情報を狭めていって思考が狭くなってしまう。そのレベルまで行けば、もうAI時代をどう生きるかみたいな未来予測の表面上の問いからはどんどん離れていく。*3

 未来予測は時に危険なコンテンツと化す。それに対応するには、頑固たる読解力が必要なのだ。

未来をどう読解するか

 読解力をどうコントロールするか、つまり未来予測の思考をどうコントロールするか考えよう。まずは僕の大好きな漫画からセリフを引用する。

「わしの経験じゃ、予知能力なんて人間にとっちゃ荷が重すぎますな。
先に知ってもどうにもならんことが多いんだ、この世の中は。」

予知能力を手に入れた謎の老人のセリフより

藤子・F・不二雄大全集「中年スーパーマン左江内氏」、p146右上のコマ、藤子・F・不二雄著、小学館*4

 主人公の中年スーパーマン左江内は、ある日の朝に突然、予知能力を手にした。日が暮れるにつて、予知能力を持ちながらのこれからの人生を想像し、その恐ろしさを実感していく。そして、彼が帰りの公園で、杖をついた謎の老人に出会う。その老人は未来を予知することができたといった。しかしそれは理論的な世界情勢の分析からであり、主人公が持つ未来予知の能力を手にしなくとも、未来を予想することの愚かさを知ったのだと言う。

 このセリフを書いたのは、あのドラえもんを生んだ藤子・F・不二雄先生だ。これは物語においては何気ない一コマだが、藤子先生が書かれたのなら話は変わってくる。あれだけ未来を創造し、そして僕たちにSFとして夢をかなえてくれた方だ。

 おそらく、これは未来を予想することに関する彼なりの結論と言っても過言ではない。様々な未来と繋がる作品を作りながら、未来を知ることに関してある問いを持つようになったのだろう。「なぜ私達にとって未来は魅力的か」と。

 大人も子供も、みんなそろって未来を知ろうとする。しかし、未来を予想しても、現在が幸せになれるかどうかなんて分からない。

本の現在

 そのうえで、本の「未来」を語ろう。まずは現状からだ。

 そもそも、僕は本が大好きだ。中でも、死んだ人が書いた本が特に好きだ。媒体は電子書籍もいいけど、やっぱり紙の本が良い。紙は真っ白というよりは、厚みのあるクリーム色の紙で、字のフォントは游明朝ならより良い。そんな紙の本をスリスリ読んでいると心がときめくからね。

 流行に敏感な、意識高いベンチャー企業の社長とかは、Youtubeの動画でこぞって筋トレと電子書籍を勧めてくる。しかし、僕はいくらムキムキになろうとも右手にあるのは紙の本だ。

 紙の良さはZ世代だって知っている。実際に紙の本が好きな高校生は多いらしい。先ほど提示した、高校生の読書に関するアンケートでも紙の本に関する項目があったのだ。現代っ子はwebと紙を時と場合に応じて使い分けているそうだ。

 どんな時と場合においてもデジタルが主義なZ世代の僕たちがこう思っているのだ。だから、大人の本好きの方はもっと紙の本がお好きだろう。*5

 本に限らず、どれだけデジタルに浸った生活をしていても、過去のアナログなものは常に魅力的だ。

 最近では学校の問題集なんかも電子化してきたが、それは単にアナログがデジタルに直で変換されただけで、目に映るものは紙のそれと同じだ。デジタルになるからと言って、なにかパッとした要素が加わったかと言えば、そうではない。やっぱり今までのように紙の参考書のほうが良い。博物館に展示される前に戻ってきてくれるだろうか。

 まずはその「紙が好き」という感情を理解するところから始めよう。

やりがい理論

 スタバのマーケティングを知ると、なぜ僕たちが紙の本を好むのかが分かる。本の出版もビジネスなのだから、ほかの業界のマーケティングと通ずる部分がある。

 なぜ、スタバのコーヒーはコンビニコーヒーよりも200円高いのに売れるのだろうか。

 それは僕たちの「やりがい」を買ってるからだ。

 スタバはブランド力があってカッコいいし、あえてスタバを選択するという、ちょっとリッチなことをしている自分に誇りが持てる。スタバのコーヒーを飲むことにコンビニコーヒー以上のやりがいを感じるのだ。

 紙の本がスタバなら、電子書籍はコンビニコーヒーだ。紙の本は、物質として所有する「やりがい」がある。読めば読むほどしおりは移動するし、本にサイズがあるから読み応えがある。一方、電子書籍はタップするだけでページがめくれてしまうし、どんなに読んでもスマホの厚みが変化することは無い。コーヒーをこぼして汚したり、きゅうりを漬物にするときの重しにはできないものに、「やりがい」は無い。

 だから僕たちはブランドを求めて紙の本を選ぶのだ。

 それに、電子書籍の登場によって、紙の本は進化した。より差別化したのだ。一見、紙の本は時代遅れに思われる。しかし未だスタバで例えることができるなら、まだまだ紙の本は続くだろう。

じゃあ作っちゃおう

 ようこそ、紙の本が無料で出版できる時代に。

 つい最近までは、一般人が紙の本を出版するとなると、昔のように出版社を通す儀式をしなくてはならなかった。そして、何十万という詐欺みたいな金額を支払わないと出版できかった。

 しかし今や経済が成長してメディアが多様化したのだ。インターネットには情報が溢れんばかりに存在するから、出してかないといけない。そこで「パブファンセルフ」が生まれたというわけだ。

 パブファンセルフは無料で紙の本が個人出版できる画期的なサービスだ。wordで書いた文章をアップロードするだけで、好きなように本が作れる。表紙だってページ数だって値段だって、自分で決めていいのだ。もちろん、工場が売れた分だけ製本して送ってくれる。1冊目から利益が出せるのだ。

 しかも頑張れば書店にも置くことができる。もしかしたらあなたが持っている本の中には個人出版されたものがあるかもしれない。

本の未来

 個人出版のハードルが下がったことにより、1人1冊の時代が訪れ、本というメディア媒体は急速に進化するだろう。そして若者の「活字戻り」が始まるかもしれない。

 たしかに、個人出版は「本」の秩序が乱れる可能性がある。本は昔から信ぴょう性が売りのメディアだ。Xでポストするように本が出版できてしまうものなら、グチャグチャになる。

 しかし個人出版の本がベストセラーになるとは考えづらい。個人出版が流行するとすれば、それは狭い人脈内での読み合いになるだろう。

「うまい下手にかかわらず、知っている人の書く言葉はちゃんと心に響く・・・親しい人が書く言葉はどんな言葉はどんなものでも面白い。」

「図書館の神様」瀬尾まいこ{著}、ちくま文庫

 手紙、年賀状に卒業文集の次に人と人とをつなぐのは、本だ。

 より僕たちがアクセスできる情報が増え、既存の活字の媒体では入りきらなくなった。量のある文章を書くのもAIがサポートしてくれる。ゆえに、本で語り合うのだ。

 その個人的な「本」には今までの常識は気にしなくていい。文章力が欠けていても、情報の信ぴょう性がなくたっていいのだ。なぜなら個人的な「本」は金稼ぎのためではなく、昔のように人の情が込められた「本」だからだ。唯一の違いは、それがamazonにあるか博物館にあるかだ。

 本から金稼ぎの意識を遠ざけ、より相手を思いながら本が書けるようになれば、日本人の読解力はいつしか向上しているだろう。

 

 だからもう、居ても立っても居られない!!僕がその第一人者となるのだ!

 高校生、本を出版します!!!

本の出版が決定しました!!
詳細は近日公表!!お楽しみに~
キーワードは・・・「○○○○」(次週発表)

 みんなも本を書こう!それは金稼ぎのためでは無く、身近な人に送るためだ!!

あとがき

 活字のことばかり考えて読解力にシビアになるのもいいが、たまには漫画で画像に触れてみてはどうだろうか。本記事で紹介した中年スーパーマン左江内氏は、青年向けのSFギャグ漫画だ。単行本一冊にすべての話が収録されているから、ぜひこの「血潮の海に・・・・・・」の回も最後のオチまで読んでみてほしい。

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 tverでは、同漫画のドラマが期間限定で無料配信中!

tver.jp

 

次週、「パロディの魅力」。

お楽しみに!

*1:現役高校生の「読書実態アンケート2023」!月の読書時間は7.7時間、月の本代は1577円【高校生なう】|【スタディサプリ進路】高校生に関するニュースを配信

*2:日本の15歳の読解力回復、世界3位に 情報探す力伸びる - 日本経済新聞

*3:日本人の「読解力」が劇的に落ちている確たる証拠 情報の摂取量が多くても思考が偏る仕組み | 学校・受験 | 東洋経済オンライン

*4:https://amzn.asia/d/gU851ZB

*5:日本の電子出版30年の軌跡:電子辞書・電子書籍の黎明期から現在まで